作品解説

≪おおかみこども≫は、私たち自身なのです。

『おおかみこどもの雨と雪』は、"おおかみおとこ"と人間との間に生まれた二人の≪おおかみこども≫が、自然豊かな田舎町で様々な人や獣と出会い、時には楽しく元気に、時には悩み傷つきながら、「自分の世界」を見つけ出すまでを描く作品です。
二人は、成長するにつれ、大きな岐路にたたされます。姉の雪は、≪おおかみこども≫であることを隠し、普通の女の子として生きようと決意します。しかし小学四年生になり転校生の草平に出会った時に、自分でも説明のつかない衝動にかられて"おおかみ"に変身し、草平を傷付けてしまいます。
一方弟の雨は、小さい頃は病弱で気弱でしたが、川に落ちておぼれかけた事件をきっかけに、自分の中の"おおかみ"の血に目覚めます。雨は、新しい世界、人間が知っているモノとはまったく違う「本物の自然」への興味にかられるようになるのです。
「人間とおおかみ、どちらの生き方も選べるようにしてあげたい」と育ててきた母親の花は、二人の子供との別れが迫っていることを感じます。「まだ、何もしてあげてないのに。」花もまた大きな選択を迫られます。

雪と雨の二人の≪おおかみこども≫が直面する問題……「人間として生きるか、おおかみとして生きるか」は、一見、現実感の薄い「おとぎばなし」の設定に見えるかもしれません。が、決してそうではありません。私たちは、生きていくうえで常にさまざまな選択にさらされています。進学、就職、結婚、出産…。人生の節目節目で私たちは、自分が何者なのか、何になりたいのかを問いかけ、悩み、そして選択をします。そう、何度も何度も。
人と同じように生きたいと願う雪も、自分自身の信じる道を歩もうとする雨も、ともにそれぞれの人生に真剣に向き合っています。≪おおかみこども≫であるがゆえに直面する雪と雨の問題は、実はわれわれが自分の人生をどう生きていくのか、という問いと同じものです。今の時代、特に子供たちにとっては生きにくく、将来に展望を持ちづらい状況です。さまざまな困難に立ち向かいながら、一生懸命に生きる二人の≪おおかみこども≫と母親の姿は、見る人すべてに勇気を与えてくれることでしょう。